忘れていくための、
山中 烏流

 
 
 
 
 
 
待ち合わせの丘
日だまり色のカーテン
この窓辺で
私は、煌めきながら
そよ風に
なるのだと思う
 
そして
空白にも似た
意識の海で、泳ぐ
その姿は
目にした時に初めて
私になるのだと
思う
 
 
******
 
 
忘れかけた記憶の
おもちゃ箱の隅は
いつだって
パンドラの箱のような
装いだった
 
お気に入りから
順番にしまっていく、過程
最後に残るものは
いつも決まって
要らないもの、なのだと
 
そのときから、
知って
 
 
******
 
 
待ち合わせの丘に
俯せで沈む頃、
太陽は
いつも決まって
おやすみの直前だった
 
私は
知っていたのだと思う
目を閉じたあと
明滅する光の筋が
流星であることを
 
本当は
知っていたのだと、
思う
 
 
******
 
 
例えばの話
無重力に任せて
漂い続けた、として
そこで見るものは
どこまでが
本当なんだろう
ね、
 
 
******
 
 
雲の隙間から
誰かの左手が
私を呼んでいたこと
そこに
意味は無いのだと思う
 
同じように、
 
私が
誰かの右手を
欲しがっていること
そこにも
意味は、無いのだと
 
 
******
 
 
ぼんやりと
消えるような声で
呟く度
私は
自分の名前を
忘れていくのだろう
 
日だまりや
木漏れ日から響く、音色
 
それらが
私の鼓膜から
心臓に伝っていき
溶けてしまう毎に
 
私は
たくさんのことを
忘れていくのだろう
 
 
******
 
 
そういえば
綺麗だと笑む
この
唇を持つひとの名前を
 
私は何故
呼べないのだろう、か。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


自由詩 忘れていくための、 Copyright 山中 烏流 2008-04-04 13:52:45
notebook Home