忘れていくための、
山中 烏流
待ち合わせの丘
日だまり色のカーテン
この窓辺で
私は、煌めきながら
そよ風に
なるのだと思う
そして
空白にも似た
意識の海で、泳ぐ
その姿は
目にした時に初めて
私になるのだと
思う
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忘れかけた記憶の
おもちゃ箱の隅は
いつだって
パンドラの箱のような
装いだった
お気に入りから
順番にしまっていく、過程
最後に残るものは
いつも決まって
要らないもの、なのだと
そのときから、
知って
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待ち合わせの丘に
俯せで沈む頃、
太陽は
いつも決まって
おやすみの直前だった
私は
知っていたのだと思う
目を閉じたあと
明滅する光の筋が
流星であることを
本当は
知っていたのだと、
思う
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例えばの話
無重力に任せて
漂い続けた、として
そこで見るものは
どこまでが
本当なんだろう
ね、
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雲の隙間から
誰かの左手が
私を呼んでいたこと
そこに
意味は無いのだと思う
同じように、
私が
誰かの右手を
欲しがっていること
そこにも
意味は、無いのだと
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ぼんやりと
消えるような声で
呟く度
私は
自分の名前を
忘れていくのだろう
日だまりや
木漏れ日から響く、音色
それらが
私の鼓膜から
心臓に伝っていき
溶けてしまう毎に
私は
たくさんのことを
忘れていくのだろう
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そういえば
綺麗だと笑む
この
唇を持つひとの名前を
私は何故
呼べないのだろう、か。