マンタレイの夜
mizu K



夜のしずかなさんごの
いきをひそめる宵闇夜
青ぐろい街の空を
マンタレイが滑空するころ
天体望遠鏡をのぞきこんでいた
ちいさな天文学者は
ベランダで眠りこけて

あのちいさな星からの何万年も前のひかり
いまはあの星は
存在しないかもしれないんだ
ぼくのおもいがあの子にとどくころ
もうぼくは
存在しないのかもしれないんだ
しれないの
しれないんだよ

かなしいかい?
そう
マンタレイは
ゆうゆうと空をすべりながら
いう
きみが死んでも
世界はあんまりかわらない
すこし涙するひとがいるくらいで
世界は
あんまりかわらないけど
ちょっとずつかわっていくよ
鳥が空にずっと
とどまれないのとおんなじように

*

そしてくらいワンルームにひとり
ディスプレイが青い
マンタレイをはなしたわたし
マウスから手をはなし
フローリングにねっころひろがり
ひんやりの感触は
マンタレイの背に
似ており

彼女のあたまをなでながら
彼女の体温がすこしずつ
うばわれていくのを
なんにもできないで
呆然としていた
わたしはもう
彼女のあたまをなでることしか
できない
花のような血だまりを正視
できない
わたしの目はゆあらんゆあらんして
耳はぐあらんぐあらん
彼女はひとことだけ
にゃあ
といってもうなんにも
いわない
すこしずつひんやりしていく

*

夜空をマンタレイが
滑空するさまをたまたま
見てしまったひとは
さらわれるという
というのはほんとかうそか
わからないけど
彼女はつめたい土の下に
しずかにねむる

ちいさな天文学者は
何光年の過去と未来を
のぞきみている
わたしはディスプレイから
夜毎にマンタレイを
はなつ
今日はだれも
さらわれないことを
すこしだけ祈りながら



自由詩 マンタレイの夜 Copyright mizu K 2008-04-03 23:59:19
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