ポケットサイズの世界 (1)
桜 葉一

『誰か拾ってあげてください』と書かれたダンボール箱の中に2匹の可愛い子猫が捨てられていて、次の日またそこを通って見ると、2匹の猫は既に安らかな眠りについており、ダンボール箱だけが望み通り拾われていた。



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朝、長い時間をかけて綺麗に化粧をしたのに、その顔を鏡の中に忘れてきてしまった。



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動物愛護を訴えるT氏の夜の食卓には、沢山の肉料理が並べられている。 



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裏庭で愛犬のポチがわんわんと吠えているので急いで行って見ると、そこには沢山のエロ本が捨てられていた。



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「君の願いを1つだけ叶えてあげましょう」と突然現れた妖精が言い、僕が「今考えるんでちょっと待って下さい」と言うと、妖精はちょっと待ったあと何処かへ消えてしまった。



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縁日で売られている風車が売れるたび、その店の電灯が少しずつ暗くなっている。



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彼は若いことをアピールするためにAKB48のメンバーの名前をすべて覚えたが、自分の妻がそのメンバーの一員であることには未だに気づいていない。



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兄は、実験中の事故を装って密かに弟を殺すことを計画していたが、彼らが作った飛行機は見事に空を飛んだ。



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母は未だに自分が処女だと言いつづけている。


 
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古本屋の片隅で何年もの間誰の手にも触れられなかったその本は、古本屋が潰れた今も誰の手に触れられることもなく、どこか湿り気を帯びている。



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渡り鳥が大海原を渡るまでに見た様々な景色が、6番スクリーンにて放映されている。



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親友とある約束をしたのだが、それが何だったのか忘れてしまい、申し訳ないと思いながらも親友に尋ねに行くと、親友は不敵な笑みを浮かべて「ちゃんと約束は守れてるようだね」と言った。



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付き合って2年になる2人は倦怠期に入っていたが、彼女がそのことを「最近私達、大気圏よね」と言ったことにより彼は結婚を決意した。



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携帯電話のストラップに仕掛けられた盗聴機が、いつだってその声を拾っている。



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裸にされ体の隅々まで身体検査をされた男は、服を着ることに恥じらいを感じた。



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燃えるゴミなのか、燃えないゴミなのかをいちいち火をつけて試してから捨てるので、なかなかゴミ袋は一杯にならない。



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少女は見た夢を忘れないようにと、メモ帳と鉛筆を握って眠っている。



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4月1日がエイプリルフールであるという壮大な嘘に未だに誰も気づいていない。



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春を探しに行った息子が、バイクの轟音を響かせて帰ってきた。



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世界一のマジシャンは、消失イリュージョンを行ったきり姿を見せることはなかった。



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かくれんぼをするたび、誰か1人が行方不明になっていて、その遊びが禁止になったあと、大人達はその理由を確かめようとするが、そのたびに彼らの妻に新たな命が宿っている。



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夕方、とある大型スーパーでエスカレーターを逆走する子どもに、負けじと張り合う父親を見かけた。



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UFOキャッチャーの人形が、掴まるまいと必死に抵抗している。



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指を切っておいて、さらにゲンコツ万回に、ハリ千本かよ!と怒っている。



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忘れ物を取りに家へ帰ったら、知らない男の人が母親と裸で抱き合っていて、母親は苦し紛れに「相撲の稽古よ」と言った。



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自由詩 ポケットサイズの世界 (1) Copyright 桜 葉一 2008-03-24 08:01:21
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