桜の咲く頃 ーさようなら、ヨシ子お婆ちゃんー 
服部 剛

ある雪の日に手紙を出しに外へ出て 
すべって転んで骨を折ったヨシ子さん  
ケアマネージャーが入院先へ
見舞いに行ったら泣きべそで 
「アタシ馬鹿よね、おほほほほ・・・」 

折れた骨がくっついたら 
また会えると思ってたのに 
ある朝ねむったまんまのヨシ子さん   
見知らぬ国へ行っちゃった 

もう会えないと思うと 
なんだか辛くなってくるから 
なるべく忘れたふりをしています 

仕事も恋もずっこけて 
いつも三枚目の 
このぼくを 
励ましてくれた 
あなたの声だけが 
今もこの胸に聞こえます 

ぼくがつくった本を買っては 
「とってもおもしろかったわよ」 
ぼくが肩を落とす日も  
「あなたとってもステキだわよ」 

若き日に、親に内緒で 
戦時中の夜行列車に飛び乗って 
兵隊さんの恋人がいる
松江まで揺られていったヨシ子さん   

旦那さまが先立っても 
月一回の受診で 
二枚目の先生にうっとり 
瞳をハートにしてたヨシ子さん  

あなたはいつも桜色の服を着て
ふわりふわりと歩いてました  

いつか家へ送った 
夕陽の射す車のなかで 
窓の外を見ながら 
あなたが口ずさんでいた 
賛美歌 

あなたがいなくなって一週間 
車の窓の外に見える 
無数の桜のつぼみ等は 
開きかけの唇から 
うたっています 








自由詩 桜の咲く頃 ーさようなら、ヨシ子お婆ちゃんー  Copyright 服部 剛 2008-03-23 17:46:52
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