そこにあらず
木立 悟
君のまますべてに到く君であれそう言わずにはいられない揺れ
望むとも望まないとも知らぬまに変わりつづける歩むものの背
午後になり来そうで来ない雨があり斜めの光に添う笛の指
遠くには水のつらなり火の飛跡ひとつはたりと瑠璃色をして
誰知らず戦地へ向かい帰らない歩みつづけるひとりたましい
語り終え語りはじめて語らずに指のかたちに残る水滴
聴くものも近づくものも無いままに洞を満たして洞となるうた
痛み失く痛む足失くなお歩む暗闇の道ほんとうの道
湯のそばにわけもなくただ水は居て湯のそばの水水を去る水
数えても数え切れない独りうた空つつく芽に季の点るとき
覆うもの追い払いまた覆うもの私の洞をついばむ鴉