ピース、ストロボ
高田夙児


   ある日友人が呟いた

  「鷺て、ポキておれそうね」

   白く細かった鷺が水しぶきの中
   静かに足を上げていた

   自転車で走っていると、いつも
   ポケットにあるピースの箱がいつのまにかなくなる
   そっと自転車を下りても 
   ジーンズの右ポケットには何もない
   左にはライター ライターが勝手に点火するほうが
   煙草がなくなるより ずっといい
   と 思う いつも

   君が僕を好きだと言った

   今日仕事場の人が辞めた
   転職先が決まったという 聞けばJR東日本
   吸ってる煙草はラッキーストライク・メンソール
 
   たまには怒られることもある
   始末書を今週中に出さないといけない

   僕は君を好きだと思わない

   猫科の動物になりたいと思う
   にゃー にゃー と言いたい
   外人ハウスに住みたい
   今外人が家にいる
   ロースクールには行きたくないと駄々をこねる友人が
   択一に受かったと泣いていた
   隣の家の人は皆挨拶しても返事をしない

   わけがわからない
   日常はあっ、
   、という間に過ぎて
   きっと私は年を取るだろう

   ピースみたいにいつのまにか
   零れ落ちていく
   いつ 落ちたのか
   わからないまま

   それでも真夜中
   自販機の前でピースを買う 
   二百八十円
   おつりの二十円はいつでもおいたまま
   誰の手に握り締められるのか
   考えて 道を歩く

   点火/点火

   ピースの短い間の煙
   私は眼を瞑り 
   呼吸をしている

   かざした両手は
   色褪せない
   ライターはいつか点火する
   それを待とうか、
   なんて心地よく考えもしながら









   
                      *オマケのお菓子

                「六月の、(送信)」

                 今日はすごくきれいな日でした
                 空気が澄んでいて
                 前を歩く友人の
                 肩の線とか振り返った頬の輪郭とか
                 美しくて 思わずぎゅっと
                 唇を噛んでしまって
                 なんか
                 きっとずっとこの瞬間を
                 生きていきたいなと思いました
                 晴れた日の空
                 の下
                 肩を並べて歩いた友と
                 路地裏で猫と戯れた
                 午後
                 そんな日




                     


自由詩 ピース、ストロボ Copyright 高田夙児 2004-07-02 22:35:31
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