渡邉建志

 Aが庭に地下室を掘った。砂だらけだ。コンクリートで少しだけ壁を固めたらしい。雨が降っ
た。床は砂だから水がじめじめと出てきてそのうち水溜りになった。晴れていたらこの砂のベッ
ドがきもちいいのだとAは言った





 崖から5メートル下の人々を見下ろしている。同じく5メートルの本棚が2メートル先に不安
定に揺れていて、なつかしの歌手(いしだあゆみらへん)のカセット全集みたいなのが入ってい
る。Yが飛び降りる。Kは5メートル高さの一輪車に乗る。Yは今度は上によじ登ろうとして、
「いやあ一番上が見えないなあ」と言う。
僕のまわりは本だらけになっている。下から声が聞こえる。
「世の中を変えるのは変人だ。飛び降りよ、変人になろう」
聞いてはならないとおもう。隣のおじさんが飛び降りようとして、怖くなってあきらめる。崖が
揺れる。いしだあゆみカセットセットが落ちていく。僕が拾わざるをえない





 僕は女だった、メイドかなんかだった、女しかいない島で、映画のように女主人とやぶの中で
抱き合っていた。自転車小屋のまえを通った兄が僕を見つけてしまった。僕はいつの間にかひと
りで、パンツなんかはいちゃいなかった





 本番が始まる。少年たちがたのしそうに歩いて入ってくる。仏蘭西の教会にいる。フォーレの
ものらしいレクイエムを歌っている。入口に小さなオケと、真中のすこしここから降りたところ
に指揮者と少年合唱がいる。人々は割とがやがやしていて、2、3人ずつ、礼拝に降りてゆく。
僕は、日本人だからどうしようと思う。
 前にいるかわいい色の白い女の子が「おかあさんと一緒じゃないの?」と日本語で聞くので、
そうだと言うと、「一緒に降りていこう」と言っておでこにキスする。僕はマグリットの青い画
集を持っている。
 終わってから、一緒に教会から出る。「それはなに?勉強?」僕は何かの絵を見せた





 家を出る。垣根の横を兎が走る。中に入れなければ。捕まえようとする。いつも逃げる。首輪
についた紐を掴む。玄関に入る。鍵をかける。母がいる。私は母と話す。棚の上に私の毛布があ
る。兎が棚の上に登る。私の毛布の上でもぞもぞする。兎も、人間がどこに毛布をおくかという
ことを分かる知的生命なのだなとおもう。毛布の中にもぐりこんだ兎を毛布ごと私の膝の上に乗
せる。抱えながら話す。温かい。兎は寒かったのだろう。じんわりと温かい。死のうか





 ザリガニとイルカは1960年高度成長期の日本に亜米利加からもたらされた動物であるが、
その貴重な1匹のザリガニを水槽に入れて運んできたのが何を隠そう俺であった。それはこんな
感じだった。亜米利加のどこかの川で、ザリガニを巨大ピンセットでつまんで水槽の中に入れる
のだが、ピンセットでつまみすぎるとザリガニが弱ってしまい、きちんとつままないと逃げてし
まってこちらの身が危険だ。という切羽詰った状況を難なく切り抜けた俺は、ザリガニ水槽を背
負って何らかの方法で日本にたどり着くのであるが、日本について水槽をあけてみるとザリガニ
はゴキブリになっているのであった。それはそれは大変嫌な思いをしたのである





 この空は東京の空ですか?ローマの空ですか?貴女は心臓が止まるそうです。かなりの確率で
止まる。そうです。僕は黙っています。裸です(相変わらず、ね)。そうして貴女の裸を抱きし
めています。怖がらせたくないので僕は心臓のことを言いませんでした。安らかにあなたは逝き
ました。再起動。貴女はまたかなりの確率で心臓が止まることになっていたのですが、今度は抱
きしめていても貴女の心臓は止まらないのでした。僕は涙を流して喜んだのですが貴女はあの青
い空の下、裸で不思議そうな顔をしているだけでした





 子どもは石をほうりなげた。ほうりなげたなり、くるっと回って、池の横の木に隠れた。春の
午後2時の日差しが、葉っぱ達の向こうでまぶしくきらめいていた。リスが木の斜めをするする
下りてきて、子どもの様子をうかがった。子どもは木の後ろから盗むように、池の水面を見つめ
た。石はぽつんと音たてて、2つほど大きな波を作ったっきり、すぐ沈んでしまった。子どもは
リスにすら、気づかなかった。子どもの様子が先週と違うので、リスは要領を得ず、そのまま木
の斜めを駆け上がって、見えなくなってしまった。くもりぞらだった





 アパート。白い。僕はあの人の部屋をトントンと叩く。僕はもう遠くへ旅立つことにしました。
その前に一目、お会いしたくて。あの人と少年を連れて僕の部屋へ。部屋ではルームメイトが寝
転んでイルカの図鑑を読んでいる。イルカの研究者になりたいんだ(あまり需要がないけどね。)
僕は遠くに行く前にあの人にもう一度キスがしたい。そんなに無理することないよ。いいよ。と
あの人が言う。何度も口づけする。あの人の舌はとても薄い。舌や歯茎に舌を這わせる。「それ
は、やめて





 相変わらず裸である。それは、表通りから見ると暗くて白い薄汚れた建物であるが、その奥は
縦長で道から離れているため静かだ。奥は露天風呂になっている。露天風呂に出てきた私は、何
かの箱の扉を開けた。私は後ろに女の子を控えていた。(だがその顔を見ることができない。)
扉を開けた箱から大きな蜂が現れたのを私は認めその瞬間走り出した。蜂はすさまじい勢いで私
を追いかけついに背中の上部に止まり、思い切り刺した。私はその蜂が何蜂か確かめるすべすら
なかった。手でもぎ取ろうとしても届かなかった。後ろに倒れて蜂を潰そうかと思ったが、気持
ち悪いし、余計毒を吐かれると堪らない。私はそこで立ち止まる。蜂の刺す痛みは治まるが痺れ
が腕に伝わってくる。蜂は暫くしてぽとりと落ちた。蜂の落下を感じながら私はそこに立ち尽く
していた。ここは表通りから見ると暗くて薄汚れた建物であるがその奥は縦長で道から離れてい
るため静かな露天風呂だ。ここは人が思っているよりずっと、心地よい





 清澄な瑞西の山上の湖に。空は広く木があらん限りに若々しく茂りそのスペクタクルの中を少
女がすっくと立っている。少し膨らみ始めた胸にペンダントが下がり、まぶしい顔をしている。
この世に幸せというものがあるのなら、これが定義なのだろうとおもう





 家、広い部屋で、裸で寝ている。窓を開けている、庭から女性新人社員達がスーツを着て、太
鼓を叩きながらポテトチップスの宣伝をする。安眠を妨げられて腹が立つ。いりませんと窓越し
に言う。わたし達のポテトチップスがいらないなんて、信じられないという顔をする。公園の方
へ消えていく。ガレージまで行ってみると、食いさらしのポテトチップスの袋がたくさん置いて
ある。僕は少しつまんだだけでぜんぶ捨ててしまう。もったいないかなあと少し思うが、今の強
引な営業と、食いさらし試供品をおいていくというやり方に非常に腹を立てる





 夜の東京。オープンカー、Tの幼友達を乗せて。後部座席、2人。どうやら俺はTに恋してい
ることになっているようだ。今、心はすっとしているか、とTの幼友達は聞く。イルミネーショ
ン、イルミネーション、イルミネーション、デパート、デパート、ラブホテル。まあまあだ、と
言う。Tのことをかまうなと言われるのだと思う。そしたら、「あなたのことが好き」と言う。
ふーん、と言う。「ああ、スルーか」と言う。イルミネーションがまぶしい。その子の横顔が見
えない。なぜ、と聞く。僕の書いた、おばあちゃんの詩が好きだと言う。それを見て、好きにな
った、と言う。(とーくで





 仏壇に可愛らしい女性の写真がぼんやりと。僕とTとその家族はその前で。自殺なのだろうと
おもう。かわいい子が自殺するなんて、この世の中、間違ってると思う。彼女について、話して
いる





 デパートの最上階、裸で、Tとその家族と、俺と家族と、弟と。Tは英語とカタカナ語ばかり
話している。歌手志望なのだからそうなのだろうとおもう。僕は言う、1年後とはぜんぜん違う
ね。Tは言う、そうだね。仕方ないよ。生き生きしている。僕は裸で毛布を被っている。僕はド
キドキしている。彼女のことが好きなのだと思う。きっと。危険だと思う。早死にしそうな顔を
しながら、でも目標を持つ彼女をかっこいいと思う。1年後、歌手が失敗することを僕は知って
いる。なぜ失敗するかは知らない。性格が妥協を許さなかったのだろう。僕の家族はもう、エレ
ベータで下の階へ降りていこうとする。僕はTと別れるのが辛いと思う。ちょっと待ってて、と
言って、毛布の中でもぞもぞとズボンを穿く





 テレビを見ている。男の子が、家の最上階の双子姉妹の部屋に入って、3人で何か、している。
お母さんが上がってくる。男の子は押入れに隠れる。ふすまを動かしてしまう。ふすまはどんど
ん滑っていってお母さんは超常現象を見たような顔をする。次のふすまが動き出し、その間を男
の子は布団を被って、窓のほうへ移動しようとするが、さすがに見つかり、男の子は一気に窓か
ら飛び降り(る瞬間ペニスがちらりと見える)、スローモーション、「うああああああああ」、
、、、、僕はばあちゃんに、こういうのどこかで見たなあという。ばあちゃんは、きっとNHK
大河ドラマだという。少年は、あとは、逃げていく。荒野だ





 歌手を目指していたころのTをNHKかどっかがおいかけた番組の再放送を偶然見る。去年の
今頃、すらっとやせていて、可愛らしい。絶えず何かを口ずさんでいる。中学校の時のイメージ
とはぜんぜん違う。中学校のときは、、、/修学旅行のフラッシュバック。Kが居る。どこかの
海岸、階段、旅館前、登っていく、Tを含めた女の子3人と、Kと僕ともう一人の男3人と、他
のクラスメート達、登って、旅館の玄関に入る、、、
 入ってすぐ左の部屋に人々はなだれ込み、机をひっくり返すと引き出しに入ったネジが床に散
らばってしまうのを、女の子達は拾っている。僕は女の子達が好きだから、中に入って一緒にマ
イクロサイズのネジやミリサイズのネジを拾う。ジミー・ヘンドリクスと吉田兄弟がネジ拾いを
手伝いもせず、アルハンブラの思い出などを好き勝手弾いている。Iさんが、タルレガの精神分
析をしている





 広間、エンジンが裸でおいてある、展示用の。みんなは講義を聴いている。動かそうとするが
動かない。踏むところが2箇所ある。腕のようになっている。思い切り踏むとエンジンから火が
出る。ボヤになりそうだ。フウフウと口から風を送る。そんなんで消えるかとしばかれる。火は、
広がる一方だった


自由詩     Copyright 渡邉建志 2008-03-18 02:44:01
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