つくしを摘む
風音

つくしを摘む。
もう10年以上の
春のならわし。

最初は
遠く離れた
つくしが大好きな
祖母に送るためだった。

気丈な祖母は
90を過ぎても
一人暮らしを続け
家事もすべてこなしていた。

交友関係が幅広く
友達も多い祖母は
夜になると長電話。

そんな祖母が
つくしの
ほろ苦い初春の味を
とても好んだ。

袋一杯摘んで
祖母に送る。
喜んでもらうのが
なによりうれしかった。

「はかまとってると
手が真っ黒になるねん。
でもおひたしとか
胡麻和えにすると
春やなあって思うわ」

祖母は電話で嬉しそうに話してくれた。

今祖母は
老人ホームに入って
もうつくしを送ることはできない。

けれど
わたしは
今年も
つくしを摘んだ。

祖母に劣らず
つくしが好きな父のために。

こうやって
毎年初春は
河原に立つんだろう。


散文(批評随筆小説等) つくしを摘む Copyright 風音 2008-03-17 06:49:48
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