いきぐるしい夜
高島津諦

 私が「死にたい」というと
 貴方は「みんな弱さを抱えて生きているんだよ」と言う
 その意味が分からなくて
 私はカロリーメイトを口に詰め込む
 口の中で砂になっていくそれを
 或いは砂になっていく口を
 低脂肪乳で流し込む
 1リットルの紙パックから直接飲む
 食器を使おうとしない私は
 人間から遠ざかっていくように見えるかもしれない


 死にたいと言う言葉は嘘じゃない
 でも正しくもない
 空っぽの私は
 周りに誤解をさせて
 私は凄いのだと虚勢を張って
 私は美しいのだと見栄を張って
 そうしなければ保つことができない


 本当のことは
 唐突に鳴る電話のベルとか
 使っただけ汚れる食器とか
 同じ時間に起きる毎日とか
 どこからか流れる噂話とか
 部屋に立ち籠める体臭とか
 社会に課せられる義務とか
 何度でも繰り返す失敗とか
 そんなのが嫌なだけで
 そんなものたちの中で生きるのが嫌なだけで
 本当は


 暗い台所で冷蔵庫がほえている
 四日洗っていない髪がベトつく
 貴方と私の反響が頭蓋を満たす
 私はまた「死にたいよ」と呟き
 誠意なんて全然籠めないで願う


 世界中の人間が楽しく生きられますように


自由詩 いきぐるしい夜 Copyright 高島津諦 2008-03-16 20:26:18
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