(一)クレイム
クレイムは自分が愛されていないと言うが、愛を得られないことに対する苛立ちの感情に支配された
ナルシシズムに満ちていた。つまり逆説的に言えばクレイムは対象を愛していないのだ。むしろ感情の、もしくはそこを支配するアンバランスな原始脳によって満たされることを望んでいるに過ぎない。
(二)データ
そもそも自然な感情でなければならない「愛」が歪められて理解されていたならばそれは自虐的な偽善であろう。自己を映写しているモノクロームは現実味を帯びない。求める球体は赤でなければならない。全てをあたため、そこに吸収する炎である。朝に一杯の味噌汁を食すように、しみついた習慣からくるものに「愛」は潜んでいるのだとデータは言った。
(三)ワラント
ワラントは重い腰を上げて、クレイムの感情が何者かによって抑圧されたのだとしたらそれはコンプレックスに過ぎないからそんな感情はさっさと捨て去るべきだと言った。いつまでも自己愛に支配されるべきではないと。
クレイムは深く暗い闇に閉じこもっていた自分を解放し、やっと明るい外気に自らを曝け出した。彼女を待っていたものは、やわらかい太陽の誘いと海中から響いてくる鯨の優しげな鳴声。今まで気がつかなかった自分の身の周りに「それら」はここかしこに転がっていた。対象が望むものを探して、それらを満たしたいという思いに駆られたクレイムは一陣の風となって飛んでいった。