ネジ台通り
佐々宝砂

サンバのリズムで彼女は案内する、
タ、タ、タ、ターンタ、
広がるフレアスカートは真っ赤、
熱気のみなぎる裏通りは、
これでも充分には裏でないらしい。
粘っこいグリースの臭い、
不意に鼻をくすぐる香ばしいコーヒー、
売り子の声、声、声、足音、足音、足音、
タ、タ、タ、ターンタ、
もしかしたらサルサのリズムかもしれないがよくわからない、
とにかく四拍子なのは確かで、
ネジ台通りにようこそ!
叫んでいるのは売り子だけではなくて、
叫んでいるのはネジ台通りのすべて、
緑、黄色、赤、青、
色彩のすべては原色で、
目眩を起こした三半規管をさらに震わせる声、
斜めにおいで!
まっすぐ歩いていたら、
ホントのネジ台通りにゃ行き着かないよ!
むっちりした彼女の二の腕に掴まってよたよた歩けば、
粘っこい生ゴムの臭い、
誰かが揚げてるコシーニャの匂い、
彼女の烈しい笑い声、
人間はまず喰うことさ!
すべては喰ってからの話さ!
脂ぎってねとねとする屋台に寄り道して、
指を汚して喰うパステウ、
辛すぎるアヒー、
ホントのネジ台通りに行きたけりゃ、
まっすぐ前を見ていちゃだめさ、
そうさ、そうさ、
タ、タ、タ、ターンタ、
斜めにおいで!



蘭の会2008.3月月例詩集「斜め」より
http://www.hiemalis.org/~orchid/public/anthology/200803/



自由詩 ネジ台通り Copyright 佐々宝砂 2008-03-15 00:34:28
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