サンバのリズムで彼女は案内する、
タ、タ、タ、ターンタ、
広がるフレアスカートは真っ赤、
熱気のみなぎる裏通りは、
これでも充分には裏でないらしい。
粘っこいグリースの臭い、
不意に鼻をくすぐる香ばしいコーヒー、
売り子の声、声、声、足音、足音、足音、
タ、タ、タ、ターンタ、
もしかしたらサルサのリズムかもしれないがよくわからない、
とにかく四拍子なのは確かで、
ネジ台通りにようこそ!
叫んでいるのは売り子だけではなくて、
叫んでいるのはネジ台通りのすべて、
緑、黄色、赤、青、
色彩のすべては原色で、
目眩を起こした三半規管をさらに震わせる声、
斜めにおいで!
まっすぐ歩いていたら、
ホントのネジ台通りにゃ行き着かないよ!
むっちりした彼女の二の腕に掴まってよたよた歩けば、
粘っこい生ゴムの臭い、
誰かが揚げてるコシーニャの匂い、
彼女の烈しい笑い声、
人間はまず喰うことさ!
すべては喰ってからの話さ!
脂ぎってねとねとする屋台に寄り道して、
指を汚して喰うパステウ、
辛すぎるアヒー、
ホントのネジ台通りに行きたけりゃ、
まっすぐ前を見ていちゃだめさ、
そうさ、そうさ、
タ、タ、タ、ターンタ、
斜めにおいで!
蘭の会2008.3月月例詩集「斜め」より
http://www.hiemalis.org/~orchid/public/anthology/200803/