深爪
智哉

クレープ屋さんがつぶれた
事象としてはただそれだけ
毎日通る商店街の一角に起きた小さな変化

しかし私にとってそれは
嬉しそうに笑う君の喪失であり
その君の思い出までもの損失で
君に遭遇する可能性の否定だった


そんなことを考えながら
風呂上がりに爪を切っていた

夜に爪を切ってはいけないなどと
一体誰が吹いたのだろう
風呂で爪を柔らかくしてから切ることは
非常に合理的で負担が少ない
それに朝や昼間に爪を切るほど暇でもない
多少腹がたってきた
果たしてそれはクレープ屋に対してか
それとも迷信に対してか

とにかくこれらの要素は
私を深爪させるのに十分だった
結局右手薬指だけが過剰な深爪に遭い血を流した

残ったものは細い三日月のような
爪の欠けらだけだったんだ




自由詩 深爪 Copyright 智哉 2008-03-11 09:50:03
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