ハムスターの午後の回転
カンチェルスキス




カーテンの後ろに隠れている 風が吹いたときだけ 姿を見せる
か細い足元は少しだけピンク色
潮の匂いと、街の喧騒が混じってる
恥ずかしそうに林檎をかじってる なるべく音をたてないように
幼稚園の子供たちの列が通り過ぎる その後は急に静かになって
窓にもたれて立っていたり、足を交差して床に落ちた散光を見つめてたりする
長い長い夜を超えても 元いた場所に戻ってくる 移動はしても 住所は変わらない
風がやんだときは たいてい眠っている 誰かに撫でてもらったみたいに目を細めて
長い睫毛が可憐な花びらみたい 黄色い夢を見て ときどき自分で黒に塗りつぶしたりする
目が覚めるのは 風が吹いたとき 寝たりなさそうな瞳には 光化学スモッグで煙った街が映る
唇をとがらせて 窓に映った自分の横顔を 自分じゃない顔のように ちらり眺めながら
誰かを待ってるようでもあり 拒絶してるようにも見える 怖いんだろうな
机の色あせた空白のノートはそのまま たまに書く手紙も切手が貼られないまま封をしてある
感情だけはやまないから 心にいくつも傷をつくった
カーテンの後ろに隠れている 風が吹いたときだけ 姿を見せる
か細い足元が少しだけうきうきしてる 夢の中で 誰かと
それほど遠くない海へ向かう電車に一緒に乗った 今日の天気予報では穏やかな風が一日続くだろう
目覚めるのも忘れて 満ち足りたような寝顔の姿は きっと この先も かげりゆくこの部屋を 奥のほうから 明るくしてくれる






自由詩 ハムスターの午後の回転 Copyright カンチェルスキス 2008-03-06 17:24:24
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