じいちゃん
ここ

私の前を
一台のトラクターが通っていく
エンジンは悲鳴を上げ
しかしその音と反比例するかのごとき
スピードで

私の前を
一台のトラクターが通っていく
タバコを燻らし
もう片方の手はしっかりとハンドルを握り締め
そのじいちゃんは
脇目も振らず
前だけを見据え 

私の前を
一台のトラクターが通っていく
ここは国道だ
これは田舎のみ許される特権か
自家用車やトラックに追い越されながら
しかし脇に寄る素振りも見せず

私の前を
一台のトラクターが離れていく
遠目に見える
ガソリンスタンドに向けて
ゆっくりと
愚直に

呆然とする私を置き去りにし
真っ赤な夕日に照らされながら
一台のトラクターは突き進んでいく



自由詩 じいちゃん Copyright ここ 2008-03-02 00:22:12
notebook Home 戻る