入学式前夜
たもつ



女は
胎内に新しい生命を宿したら
「母親」になるというのに

男は
新しい生命が誕生してから
「父親」になる権利を得る
のだろうか

それは
目の前に細く頼りない道が一本
忽然と出現するようなもので
トボトボと歩き出したりもするのだが
どこまで歩けば「父親」になるのか
まったくもってわかりやしない

いや、もしかしたら
出発する時期が違うだけで
母親にも父親の道と平行に続くのが一本あって
こちらからは見ることができないその道を
歩いたり、走ったり
しているのかもしれない


入学式前夜
築二十三年の社宅六畳間
隣では娘と妻が小さな寝息をたてている

「川」の字になって寝ると
おぼろげに
平行に続く三本の道が見えた

電気が消えた玄関では
おろしたての靴が三足
並べられている





自由詩 入学式前夜 Copyright たもつ 2004-06-28 17:35:17
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