「 左手と、切り分けられた三十一文字の指と文体遊戯。 」
PULL.







親指はせわしなげに空白の悲鳴を打つので切りました「  」。



 夕べ海で、忘れた指を見つけました。指は
貝になり、海の音を打ち続けていました。わ
たしはそれを切り分けて、貝殻を、なくした
耳にあてました。海の音は、もう、どこにも
聴こえませんでした。



誰も刺さない「人差し指」切ってあなたのこころに刺してあげる。



 ながい時のあいだ、ひとに触れたことがな
い。わたしの指はさみしがりやで、ひと恋し
くなるとひと知れず伸びて、あらぬ次元の彼
方まで、ひとを求め旅に出る。指は知らない。
ひとはいない。もうひとは、どこにもいない。
あの霧の夜、ひとは、次元の彼方までひとり
もいなくなった。わたしは知っている。血塗
られたわたしの人差し指は、還ってこない。



いたずらな指いつも誰かの中で濡れているだから切って渇かすの。



 渇いた夜は、裏庭の土に、水をやる。きっ
と春がくれば芽を出して、夏には立派な指が、
実るだろう。



痛い?指輪を外したこの指で痛くない薬つけてあげる。



 想い出すのは大好きな、人差し指よりもな
がい、あなたの薬指。ティーカップを持つと
きはいつも、なかよく隣の小指と一緒に、反
抗期。ねえ言ったっけ?。あたし、あなたの
小指になりたかった。



なくした指は何本ですかわたしが切った指はこの指ですか。



 ある朝わたしが目覚めると、わたしの小指
が、妻とともに消えていた。妻は今、わたし
に似た小指をした男と、海のある街で暮らし
ている。昨日、妻から小包が届いた。中には
離婚届と、ドライアイスで保存された、元妻
の、小指が入っていた。






ねえ手を出してほらそこにひとつふたつみっつ見覚えのある指みーつけた。












           了。



自由詩 「 左手と、切り分けられた三十一文字の指と文体遊戯。 」 Copyright PULL. 2008-02-19 07:48:21
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