分厚い朝
あすくれかおす
朝ごはんを食べている
私は
朝ごはんを食べながら
パレスチナの報道を眺めながら
今日の数学レポートのことを悩みながら
今夜のサークル飲み会の時間と場所を思い出そうとしている
私の大学受験は終わったというのに
私はいまだに
「全国大学入試問題正解」
の
分厚いページを捲っている
私はあと三年間
「全国大学入試問題正解」
の
もしくはそれに酷似した
分厚いページを捲りながら
これから第二 第三の私
か
もしくはそれより崇高な
分厚い大人を教育する援助をするか
邪魔をするのだ
私の兄は
そんなもの勝手に育つという
「ちゃんと生きていれば
ちゃんと生きていればな」
兄は
朝ご飯を食べないで
「ファイナルファンタジー」のレベルを上げながら
ときどきやってくる着信音に右手を伸ばしながら
「失業保険受給資格者のしおり」をお尻で踏んでいる
何かがおかしい何かが
ぜんぜん分厚くないじゃない
そう思った瞬間に
なんだか馬鹿馬鹿しくなって
私は枕元で沈黙していたレポートを紙飛行機にして
二階のベランダからえいやと飛ばした
お向かいの屋根瓦に突き刺さったけど
それも愛嬌
女も愛嬌
きっとレポートは学校で印刷しなおすのだろう
兄は曲がったしおりを持ってハローワークに出かけるのだろう
ぜんぜん分厚くないじゃない
ぜんぜん分厚くないけれど
それでも嬉しくなるでしょう
それでも楽しくなるでしょう
生きていれば
ちゃんと 生きていればな