分厚い朝
あすくれかおす




朝ごはんを食べている


私は
朝ごはんを食べながら
パレスチナの報道を眺めながら
今日の数学レポートのことを悩みながら
今夜のサークル飲み会の時間と場所を思い出そうとしている


私の大学受験は終わったというのに
私はいまだに
「全国大学入試問題正解」

分厚いページを捲っている


私はあと三年間
「全国大学入試問題正解」

もしくはそれに酷似した
分厚いページを捲りながら

これから第二 第三の私

もしくはそれより崇高な
分厚い大人を教育する援助をするか
邪魔をするのだ


私の兄は
そんなもの勝手に育つという

「ちゃんと生きていれば
ちゃんと生きていればな」


兄は
朝ご飯を食べないで
「ファイナルファンタジー」のレベルを上げながら
ときどきやってくる着信音に右手を伸ばしながら
「失業保険受給資格者のしおり」をお尻で踏んでいる


何かがおかしい何かが
ぜんぜん分厚くないじゃない


そう思った瞬間に
なんだか馬鹿馬鹿しくなって
私は枕元で沈黙していたレポートを紙飛行機にして
二階のベランダからえいやと飛ばした


お向かいの屋根瓦に突き刺さったけど
それも愛嬌
女も愛嬌


きっとレポートは学校で印刷しなおすのだろう
兄は曲がったしおりを持ってハローワークに出かけるのだろう


ぜんぜん分厚くないじゃない
ぜんぜん分厚くないけれど
それでも嬉しくなるでしょう
それでも楽しくなるでしょう


生きていれば
ちゃんと 生きていればな
 





自由詩 分厚い朝 Copyright あすくれかおす 2008-02-10 05:41:30
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