クマメモ1
あすくれかおす
ひさしぶりに小学校へ行く
わたしが覚えている校庭のシロクマは
わたしが中学生になっても 高校生になっても
いつだってシロクマのまんま
青い瞳で じっと鉄棒を横から見つめながら
足の根っこを地面にくっつけて
わたしが初めて逆上がりできたときも
こうもり傘しながら考え事してたときも
いつだってシロクマのまんま
高校を卒業するとき
わたしは久しぶりにこうもり傘をした
そのときシロクマが 初めてしゃべった
「だれかに話したいことがあるんだろう
それをきちんと話してみなさい
君がちらちら考えたことのすべてに
ちゃんとした譜面をつけてあげなさい
君がいつか
歌を歌いたくなるときのために
あらゆる本当や
あらゆる嘘を包んでいきなさい」
鉄棒とわたししか見えてないはずなのに
あのシロクマはこの世界についてよく知っていた
あれからわたしは愛を覚え 時に忘れ
高いところを見上げるときの空っぽが得意になった
やがてわたしは雲になっていくのだ
広大な世界をたゆたいながら
五線に散らばった音のかけらを集めて
やさしい雨のように
この世界に降り注がせる
鉄棒はわたしの雨粒で
茶色く年をとる
シロクマはシロクマのまんま
もうひとことも喋らないだろう
そしてこうもり傘をする少年がいたら
きっとわたしは「おかえりなさい」と
雲語で呼びかける
そのときのわたしは
ひょっとするとシロクマのようなカタチをしていて
わたしの言葉は
「いってらっしゃい」のような音色で聞こえるかもしれない
いってらっしゃい(おかえりなさい)
ただいま(やあひさしぶり)
わたしのくも(シロクマ)
(もうすぐ大学生を終えるわたしは
久しぶりにまたひとり
こうもり傘をしながら
シロクマを横目で見つめている)