ルチウスのヴァイオリン
草野春心
森に歌え
回廊に響け
ルチウスのヴァイオリン
少年の痛みを
世界にはびこる欺瞞を
ルチウスのヴァイオリン
まちがった正しさや
反吐をもよおす偽善を
小さな頭に詰め込まれたまま
薄氷に消えたいくつかの命
その前で人は立ち尽くす
百年立ち尽くす
魚になって
飛沫になって
少年の日は戻らない
恋を知って
その苦味を知って
少年の日は戻らない
ルチウスのヴァイオリン
苔のうえに寝転んで笛吹き
枯れ葉のノートに詩を書き
ルチウスのヴァイオリン
泣いているのか
泣いているのか
(着想:ヘッセ「車輪の下」より)