ルチウスのヴァイオリン
草野春心



  森に歌え
  回廊に響け
  ルチウスのヴァイオリン
  少年の痛みを
  世界にはびこる欺瞞を
  ルチウスのヴァイオリン



  まちがった正しさや
  反吐をもよおす偽善を
  小さな頭に詰め込まれたまま
  薄氷に消えたいくつかの命
  その前で人は立ち尽くす
  百年立ち尽くす



  魚になって
  飛沫になって
  少年の日は戻らない
  恋を知って
  その苦味を知って
  少年の日は戻らない



  ルチウスのヴァイオリン
  苔のうえに寝転んで笛吹き
  枯れ葉のノートに詩を書き
  ルチウスのヴァイオリン
  泣いているのか
  泣いているのか




(着想:ヘッセ「車輪の下」より)


自由詩 ルチウスのヴァイオリン Copyright 草野春心 2008-02-06 12:20:54
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