手違い
小川 葉
何かの手違いで
一緒に暮らすことになった
隣の奥さんは
はじめとても戸惑ってたのに
奥さんがベッド
僕がソファ
と決めてから
少しずつ話すようになった
そのほとんどが
旦那さんの話で
僕はといえば妻の話ばかりで
だんだんと打ち解けていった
それでもやはり
淋しいのか
急に無口になることも多かった
それは僕も多分同じだった
ある日
偶然を装って
隣の旦那さんが来たけれど
それは偶然ではなかったので
帰らなければならなかった
その夜奥さんは
ベッドに深く潜って
泣いていた
僕はソファの上で
妻のことを考えていた
妻と偶然出会った日のこと
妻と偶然恋に落ちたこと
妻に偶然プロポーズすることになった
あの夜のこと
全ては何かの手違いで
翌朝
隣の旦那さんが
偶然家の前にあらわれた
なんでもあれから
朝までわけもわからずに
反対の方に走り続けてるうちに
いつのまにか元に戻ってたそうだ
今回はさすがに
これは偶然という他ないので
旦那さんは奥さんを連れて
隣の家に帰っていった
お世話になりました
と言って
久しぶりに手をつなぐような顔をして
塀の向こうに消えていった
二人を見送ってから
家に入る前に
ふと何かを思い出したように
郵便受けを開けると
そこには何かの手違いで届けられた
妻からの手紙が入っていた
それは全くの
偶然だった