夜だった。一人だった。
鴫澤初音

夜だった。一人だった。暗い川を筏で渡ろうとしていた。筏はとても古かった。櫂で漕ごうとするとバランスを失った。川は濁流で、僕は今にも落ちそうになった。すると、川面からぬめっとした首のような、海獣のような、鰻のような、蛇のようなものが生えてきて僕の筏を支え始めた。

帰ってきた僕には女性器が着いていた。確かに手術されたいと思ったし、同意したのを覚えている。森の奥には学生宿舎があって、僕はそこに住んでいた。帰って来てまず隣の部屋の坊主頭の少年とセックスした。2回した。何か変なものが僕の中に詰まっている感じだった。僕はつるりとした坊主頭の上で身体を揺らしながら、自分のペニスが揺れているのを見た。僕はどうやら確かにああ、と声を漏らしさえした。でも2回目になると(「ああ」と声を漏らしはしたけれども)本当に気持ちよくはないのだと自覚していた。見下ろすとやっぱり坊主頭の少年だった。よく考えてみると知らない人だった。

トイレに入ると大きな鏡があって、一昨日までの僕とおんなじ顔だった。朝だった。小便をするためにジッパーをずらすと、勃起したペニスに緑色の斑点が浮かんでいた。男性ホルモンが出なくなったからかなあと考えた。


散文(批評随筆小説等) 夜だった。一人だった。 Copyright 鴫澤初音 2008-01-30 03:11:57
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