電話
小川 葉

妻が帰るまで
電話になってみる

受話器の奥が
外側に伸びてるあたりから
昔はなした電話の声が
聞こえてくる
思えば随分
たくさんの人たちと
はなしたものだ

亡くなった人もいる
生まれてない人もいる
不思議な懐かしさに
思わずベルを鳴らす

自分の声さえ
この世に存在しない
他人のように聞こえる
そしてあの日の
妻の声がする

たいしたもの作れないけど
そう言って
家に帰ると親子丼だった
洋食じゃなくて
よかった
はじめての夜だった

妻から電話がくる
僕は電話のまま
電話にでる
今夜は遅いから
先に食べてて

僕はもうしばらく
電話のまま
妻を待つことにする


自由詩 電話 Copyright 小川 葉 2008-01-22 21:24:42
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