世界
紫音
流れゆく車窓の向こう
闇に点在する灯火
喪失が生の証だとすれば
死がもたらすのは何
死が清掃されゆくこの世界で
隠されるが故に
それは横溢してゆく
死の希薄化は生の希薄化となり
時間に対し開かれることなく
ただ瞬間を刻む存在となる
願わくば我に死を
請い惑う奥深く
問われるのは生の絶望
ただただ流れゆく景色のように
点在する可能性は
悉くすり抜けてゆく
ここは生と死のラグランジュポイント
破れることなき均衡の世界
日々
気がつけば明けてゆき
気がつかぬうちに暮れてゆく
手にするものが
手放すものだとしても
迷わずに掴み
血まみれで手放そう
涙無き世界に
第九の旋律は響かない
全くの残酷で
蓋然ではなく究極の必然
運命は
だからこそ冷徹にして
美しい
闇に潜む先に
点在する灯火を
ただ
掴み取れ
ほとんどは
恐ろしいまでに価値も意味もありはしない
そもそも
この世界に価値も意味も
ありはしない
「あのお店が無くなった」
「あの人が居なくなった」
それは
別の何かを上書きしたに過ぎない
忘却し抹消し殲滅せよ
失うモノの無い世界は純粋な停滞と均衡
新世界の可能性は
ただ極限の終末の中に訪れん
血と汚辱に塗れたその手で
顔を拭い鏡を見る
そこに映るのは
醜く小さきモノ
自分
自分
自分
それに死を与えよ
その可能性こそ
生の光芒を生むもの
絶望はまったくの闇にして
だからこそ光をもたらさん
儚き哉
その情念こそ
絶望を呼び
生を喚起する
嫌悪こそ
自己への嫌悪こそ
生の躍動の道標
惨めな記憶を
いまこそ
デリートすべきとき
虚ろな均衡を
いまこそ
メモリーごと破壊すべきとき
新たに刻まれるあらゆるモノは
新たにあらゆる喪失を生む