その坂の上は外人墓地になっていて
少しだけ風がそよぐ。
港町を見下ろすその場所で、
土の上に居場所をなくした人々が 眠っている。
その風を、汗に濡れた指先でなでるのが好きだ。
だから今日も 真夏の陰る坂道をゆく。
急な細い坂道を、
ぐねぐねとのぼっていく。
白いワンピースと、白い帽子で。
たくさんのことは理不尽で
言葉にならずに埋もれてしまったものたちは
確かに 空中を漂いながら、
やがて墓場にゆきつくのだろう。
目の前に、確かにそれが見える。
明るすぎる日差しに、細める目が やさしく痛む。
ありし日の思い出は
スカートをまきあげる真夏の風が
熱に浮かされた戯言のように
その真価を 真珠の首飾りのように 織り上げてゆく。
世界が終るまで
あたしはその坂をのぼる。
あたしはあなたの人生に、 花を絶やさない。
〜ありし天文所の休暇〜