川を渡る
草野春心



  人について考えるとき
  僕の足はひとりでに川を渡る
  無機質な思いに淀んだ川



  夢はあるだろうか
  吹く風は優しいだろうか
  明日は来るだろうか



  「高いところから見下ろすと
  車の流れはまるで川のよう……」
  そんなこと言っていた頃が
  阿呆みたいな時代が僕にもありました



  望みがやぶれ
  絶望が立ち去り
  やれやれ僕は疑う意識さえ失う
  愛する人が消え――



  むかし僕たちは人間だった
  今はただの薄っぺらな説明書
  もしくは胃腸を病んだ哀れなタマシイ



  有機的な別離の香りが
  淀む寸前……美しく映えるのを見た
  人について考えるとき
  僕の足はひとりでに川を渡る



自由詩 川を渡る Copyright 草野春心 2008-01-19 21:29:28
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