LLUVIA DE ORO
大覚アキラ

 メキシコシティの古い教会の前に、満開の黄色い花をつけた大きな樹があった。セルリアンブルーの空と、滴り落ちるように咲き誇る鮮やかな黄色い花。そのコントラストは、瞳孔に刺すように眩しく、そして美しかった。ぼんやりとそれを眺めていると、一人の老人が近寄ってきて不思議な言葉をぼくの耳元で囁いた。意味が分からずきょとんとしていると、金の雨GOLDEN RAINっていう意味だよ、と片言の英語で言って、弾けるような笑みを浮かべて歩き去っていった。十数年前のメキシコへの旅で、一番記憶に残っている出来事だ。
 あれからずいぶん時間が経った。ぼくは、あの頃とたいして変わらない毎日を今日もやり過ごしている。変わったことといえば、子どもができたことと、仕事を変わったこと、そしてずいぶん体重が増えたことぐらいだろうか。花の名前を教えてくれたあの老人は、もしかするともうこの世にはいないかもしれない。あの樹は、今でも変わらずに、あの教会の前で美しい花を咲かせているのだろうか。そうであってほしいと思う。


散文(批評随筆小説等) LLUVIA DE ORO Copyright 大覚アキラ 2008-01-16 14:12:57
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