挿絵の旅人 〜唐招提寺にて〜 
服部 剛

十日前の旅先を思い出そうと 
揺り椅子に腰掛けて  
手にした「大和路」の頁を開く 


一枚の挿絵は 
夕暗ゆうやみの時刻 
唐招提寺の円柱に 
そうっと片手をあてる 
在りし日の旅人

淡い水墨の情景に 
天女の浮かぶ円柱は 
ほの暖かい色を帯び 
旅人の 
ぴたりと添えた手のひらに 
悠久の鼓動を伝える 

頁に一筆で書かれた
旅人はふいに
まなざしを西の空へあげる 

日の陰る 
薬師寺の尖塔は 
いつまでも夕陽を浴びていた


手にした読みかけの「大和路」を 
揺り椅子に腰掛けた 
膝の上に開いたまま 
瞼を閉じてくるまれた
夢の何処いずこから響く 


古の鐘の音 








自由詩 挿絵の旅人 〜唐招提寺にて〜  Copyright 服部 剛 2008-01-16 00:49:43
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