90’s
水町綜助

ぼくとぼくとぼくというのがぼくたちのことだが
そのぼくたちのなんということもない
へそで茶でも沸くような
毎日のことを
(毎日とは日と日と日と日と日と……)
前評判を置き去りにでもした形で
少し噛んでは
吐き捨てる
チューインガムのようにでも呟こう



巻いたタバコに火を点けた1993なんだかきもち空気もまだきれいで
ガソリンなんかもまだやすく
幾らだったかは忘れたけれど時給七百円くらいで車輪は回ることもできた
空の近い地方都市を
その町中を
平べったく
ただ東の方に白い町並みが見えて
余白だらけのなかを
うすくスキッドマークを付けて
不良でもなく真面目でもなく頭も良くないぼくたちがくるくるくるくると旋回しては
校舎の窓から放られた紙飛行機くらいにはできすぎに
おちて

車輪はそう
とまることもできた
東の町
象徴としていたのは白染めの丘と鉄塔群
電線は密でなく
太陽光線をかざなりに切り落としては
そしらぬかおで
ひょうひょうと
ぼくたちを
夜いろにそめあげる
赤々と
(夕日)
赤々と燃やしきったあとで
夜に
銀色の鉄塔が川沿いに連なって
電気の光を鈴のように灯して
ガラスのように光る
終わってゆく町の
いつか時間が息を引き取るときがあるなら
きっとこんなかたちに
結晶していくんじゃないかと思わせるような

連なって
川の果て
海へ出るくらいの場所まで
そこで
文字通り死んで
終わり
一点に
きえず
一点に
光り





あけはなち
わかいてから
一斉に無数の
紙飛行機が放られる
青白く空
あつくも
さむくもない
外へ
吹きながれている
乗って
とても
とても運がよければ
とても遠くまで飛んでゆけなくもない
見えなくなるほどには

いつまでも
目でそれを
追うことは
罪悪に近い
と言われた
ぼくはまだ
その是非を
判断できていない

俺がしてたら殴っちゃうね
でもそれをしてる
自分以外のひとは
きれいにみえるな
そのひとの瞳はきっと青色を流した黒色だろうよ
たくさん潤っていて
そしてそれはぼくたちが飲みたいみずさ!

窓の外の
空だの雲だのだけがカラーで
そいつをくりぬいてるぼくたちは影絵だ
ひどく黒く塗りつぶされているが
誤解しちゃいけない
それはただ強いからだ
発光がつよいからだ
だから水晶体に焼き付いてまっっ黒なんだよ!
誤解しちゃいけない



1994
世紀末世紀末
とかぼちぼち口端に上り始めた頃
帰り道の公園でいっっもブランコをこいでたぼくたちは西の空にユーフォーをみた
ブランコに腰掛けてめいっぱい振れて
前に振れていくとき
真上の空をみるんだ
すると離陸してくかんじだよ
それが好きで毎日やってた
そうしたらお誂え向きにユーフォーがみえた
ビー玉くらいの白い玉がちりちり浮かんでて
ボーっと動いてそれから消えた
ぼくたちは無言で顔を見合わせ
またブランコをこいだ
何事もなくそれぞれのうちへ帰り
夕飯を食べて寝たらニルヴァーナがほんとに涅槃にはいっちゃった



1995秋ありきたりに体育館は燃えた
黒い長髪の純平が燃やした
飛び後ろ回し蹴りがきれいに決まるやつで
ただそれを見たことはなくてイメージだ
便所の入り口で丸くなってよく寝てて
廊下で年がら年中ずっと座ってぼうっとしてた誰かと同じようにあたまがすこしへんに思われていたやつだ
そいつが燃やした
ありきたりに燃やした
意味はありきたりに
ただ燃やした
享志
おまえは燃やしちゃいけないよ
燃やしちゃいけない
むしろ
水をかけるんだ
かけて火を
けしな
しらけるまえに
ころあいを見計らって
塩梅よくけしな
そんなこすっっからい
やつだよ








1996

>緑色ガラス青色ガラス黄色ガラス内側から砕け散った
>白陽ちりぢりに
>光線撹拌ぐるぐる回って
>乾いた白い鎖骨砂みたいにさらさら
>一分より早くて十分の一秒より遅い
>給水塔演劇館三階
>窓ガラス埃まるけブルーオレンジブルーの真昼時
>倒れた椅子の折れた足無作為さかしま本棚
>乾く喉
>濡れ落ち葉
>始点と終点の設定
>ニ次元の三次元の青空
>晴れやかに晴れやかに
>すぐ下に森林があるよと君
>晴れやかに!
>七階建てさ僕は昇る
>屋上八階はヘリポート風見鳥きいと鳴くよ
>青黄緑ガラスをついばみながら南を指すよ
>破裂したパレット


1997〜
    〜
    〜みんな二十歳にでもなった


1998
よくわからない


1999
なんにもおこらなくて
ぽかりとくちをあけた


2000
裏面があって

げんざいにいたる


自由詩 90’s Copyright 水町綜助 2008-01-15 00:35:24
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