いちごみるく
池中茉莉花

温泉に行った
ほっかほかにあったまったあとは
冷たい麦茶がいい

自動販売機のまんなかに 麦茶があったっけ

からん

コインを入れた


熱をもった ほっぺたに
瓶をくっつけて
ホールまで 歩いていった

「めずらしいね、いちごみるく?」

母が目をぱちくりしている

握りしめていたのは
小さな苺がちりばめられた
ぴんくの瓶


「間違っちゃった」

いってもいいのか わるいのか
ちょっと 迷いながら
「おじいちゃん、これ、好きだったよね」
とちいさな声でいってみた



母がうつむきかげんで ぽつり なにかを呟いた

後悔の念におそわれて
静かに立ち去ろうとしたとき
母の言葉が聞こえた

「病院変えたとたんに 死んじゃうなんて
 殺されたような ものだわ」って


おじいちゃん
もう、こっちは だいじょうぶ


自由詩 いちごみるく Copyright 池中茉莉花 2008-01-08 16:05:32
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