もし、子供が生まれたら「ハム太郎」と名前をつけたい
青木龍一郎

もし、子供が生まれたら「ハム太郎」と名前をつけたい。
生まれて、即ピアスと刺青とかして、スプリットタンもさせたい。
髪もシルバーに染めて。

そんで、すげー大人しくて頭が良くてやさしい良い子にしたい。
異様なまでに内面と外面のギャップを作り出したい。
誰かがいじめられてたら、絶対、傍観するとか卑怯なことはせず
かといって、自らいじめを止めさせるような無茶なことはせず
素早くかつそっと、先生に言いつけるような頭が良くてやさしい子にしたい。

小さいときから、食事の後はスプーンとコップだけでも自分で洗わせたい。
ちゃんと洗えたらご褒美としてえんがわの握りを食べさせてあげたい。
大人になるまで本当の名前を教えない。
ずっと「お前の名前は『はじめ』という名前なんだよ」と教える。
将来、大人になって結婚とかそういう大事な手続きをするときに、役所の人から
「あのー。『青木はじめ』ではなく『青木ハム太郎』で出生登録してありますけど」
とか言われて愕然としてもらいたい。
このとき「父さんたら本当に面白いなあ」と笑って済ませるくらいの心の大きな子にしたい。

スポーツましてや格闘技などは絶対やらせない。
ものすごく弱い子にしたい。
僕が53歳、ハム太郎が25歳とかになったとき、たとえハム太郎が僕にはむかってきたとしても
僕がハム太郎を片手でひねりつぶしたりできるようにしたい。
これは僕の孫にも言えたことで
僕が76歳、孫(命名予定:ハム太郎ジュニアorハム太郎2)が20歳とかになったとき
僕(76)が孫(20)を一本指で木っ端微塵にできるようにしたい。
要するに、僕は死ぬまで下の世代に負けたくない。
激弱な息子と孫に育てたい。

嘘をつかない子にしたい。
子供のころからハム太郎が嘘をつくたびに奴を本気でボコボコにする。
そうすれば、「嘘=ボコボコ」の公式が完成し
大人になって嘘をつくたび、反射的に「ヒッ!」と悲鳴をあげ一人で勝手にビクンとなってしまう体にする。
これで嘘をついてるのがすぐ分かってしまうため嘘つけない。
そういう子にしたい。

僕が詩を書いていることは一切秘密にしたい。
詩もハム太郎の自由にさせてあげたい。
でも、奴はたぶん自分から勝手に詩を書き始めると思う。

あと、ずっと一緒にいてあげたい。
毎日、一緒に小学校に行って、一緒に授業を受けて、一緒に給食のカレーを食べたい。(ちゃんとスーツを着て)
息子の席の隣にいつも真顔で立っていてあげたい。
もし、息子が教科書を忘れたら、スーツのふところからそっと教科書をみせてあげたい。
ハム太郎が他の児童たちに「お前は毎日が授業参観だよな」とからかわれたら
そいつらの服を全部引っぺがして、縄で縛り上げて、教室の天井に吊るし上げて、晒し上げてやりたい。
僕は小学生相手でもマジで手を抜かない。

ハム太郎が中学生になったら帰宅部に入部させたい。
そして、ハム太郎が家に帰ってきて「僕、帰宅部の部長になった!」と言ってきたら
僕はハム太郎を抱きしめてやりたい。
そして、きっと彼の大好物であろうえんがわの握りを一杯喰わせてやりたい。


高校に行って
大学に行って
ハム太郎が大人になって
ハム太郎が綺麗な女の人を連れてきたら
その女性を僕が奪い取って「お前はこれで十分だ」とすっげーブサイクな女の人を紹介したい。
息子の彼女を奪いたい。

ハム太郎が社会で揉まれて
人間的に成長して
本当に綺麗で
本当に大切な人を連れてきたとき
僕はハム太郎にただ一言
「おめでとう」と言ってあげたい。

本当の本当に心の底から祝福してあげたい。
きっと泣くと思うけど
狂った素振りで紛らわせる。

でも、きっとハム太郎には
「お父さん、泣きながら奇声上げてクルクル走り回ってるよ」
とバレちゃうんだろうなあ…。

そして、春に死にたい。
僕が死ぬとき はじめて 僕が詩をかいてることを教えたい。
病院のベッドの上で、大人になったハム太郎と桜を見ながら
素敵な詩を詠んで聞かせてあげたい。

それは、笑いを誘うような面白い詩がいい。


散文(批評随筆小説等) もし、子供が生まれたら「ハム太郎」と名前をつけたい Copyright 青木龍一郎 2007-12-27 19:31:46
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