どうしても飛べない
soft_machine


どうしても飛べない
おくびょうな紅葉はふるえて飛べない
もうすこしだけ力が欲しい
繋がりのない空が
きっと冷たくて
誘う紅の涙の貌を
冬はじっと見ていた
どうしても飛べない

山帰来の誇らし気な蔓がゆっくりと絡みとる
金剛石の照射は色褪せないというが
老女の世界に遺された金環は
皺だらけの薬指で
いっそうかなしみを夢に変え
廃屋も間近い構えと畳の眠り心地を
何の手立ても無くひとり朱の粒に祈っている

拭きあげた顔に切れ切れの記憶が甦る
もう一度だけあの枝の灯火に触れたい
ベッドから首だけ覗かせた祖母の願い
抱えた腕のたったひとつのかけがえが

もうどうしても飛べない
すこしだけ願いを分かち
やわらかくしなう
この枝の尖でどうしても飛べない
蔓をひとつ伐るたび鳥が泣いて
一瞬の空の中で舞い散る空へと
もう、どうしても飛べない






自由詩 どうしても飛べない Copyright soft_machine 2007-12-24 20:26:54
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