猫といっしょ。
鯨 勇魚
曇った硝子窓の向こうは、
憶えているから。
あたしは、ブランケットで身を包みながら、探し物。
集めたもの、星屑、蜂蜜。水煮の缶詰。
そして、おやすみなさい。の、
声を待っています。
ため息一つが、あたたかい事から思いだしてしまう、季節。
爪先で円を描く。窓辺にはシャム猫が指先を追って嬉しそうにして。
あたしは、ここから、ここまでの距離が、なんて、感覚でしかない。と、伝え際。
(ね、おほしさまって、こんなにも遠いの?)
さっきまで本当だった。それは、
今。すっかり冬の詩へと姿を変えてしまいます。
夜は。そっと指を伸ばして、
心に必要なものを撫でるから、
硝子の霜は、
次に、唇の温度で溶けるでしょう。
ゆっくり息をして。
(結晶群のカケラが雪片で、ちょっとした御馳走かもしれない)
でも、舐めてはいけない約束。
砂糖に水を加えたキャラメリゼだったら、
舌をやけどしてしまう。
そろそろ、いつもの時間。
向こう側を想像しよう。
目をとじて。
首のながい、シロクマが、
いっぱいに、のびて、
背伸びしちゃうよって、もう少し。
ほら、
お月様の蜂蜜を、
鼻で掻き回しているように見えるのは、
お腹の空いている証拠。
(もう、人。は、あんなに遠くのお月様までいけるのね。)
あたしは、待ちすぎた、きらきら。
かき集めて、全部欲しいわがまま。
鍾乳の、しずく。を、指先で触れると、
細やかなシャム猫の記憶に、
入り込みたい気持ちが抑えられない、
幼いのかな。
そんな夢を見たいから、
見開き、目の前の硝子、
結晶群を除けるようにすると、あっという間で。
たちまち息を飲むような、ね。
美しい景色が胸元に飛びこんでくる。
(星を降らそうよ。鏡面の水盤が灯りを落としたこの場所まで)
そのままの、
今のままの触れる感覚があるうちに、
はしゃぐように、
手を鳴らそう。爪は隠して。
その時間を、
魚が楽しみにしていたかのように、
逆巻こうとする水盤は、
メリーゴーランド。
(くる。くる、あの魚。こないかな、食べちゃ駄目だからね)
追い掛ける、つもりの、眼差し。
星座表のように示すから。
回転盤を逆に走り回る遊び。
決まりを一つ、躓いてはいけないの。
なぜ、いけない?
シャム猫に笑われてしまうもの。
(ほら、星、降りそうだね、うん。実は、みんな、あれは、独り言だよ)
でも、見上げたなら、
発光。する、星。の、あれは、
もう、架空かもしれない。
対照的で、お喋りするようにきらびやかな夜の街が、
架空線から垂れた結晶に覆われていくのが見えます。
わたあめ、みたい。
だから、それも一瞬のことのようで、
瞬き、気がつくまでの、
無言の想像。放置。
霜を払ったばかりの窓は、
また、うっすらと霞がかって、
やはり瞬く間に、
(お互いの視界を遮ってしまうのだから)
ほら、硝子一枚隔てている。
雪に満たされつつある外界は、ひどく冷たそうです。
それを肌で感じることが、心地よかったのに。
今は、温かい雪しか、知らないふり。
覚えている。ってこと。
確かな時間が刻んでいたように、
踏み締めた雪道。
(よっつの、つま先が、方角を見失う感覚、ね)
洋燈の影が、
雪を掬っている、
あれも、
だから、独り言だよ。
大切な夢だけにはシャム猫の、にゃん!という眼差しがあって、それがあたしを抜け出してしまうと、魚でいられなくて、その状態を「おやすみ」と呼ぶしかないのです。お月様って、あのシロクマって。あたしって。寒い訳でもなくて、体を動かす事が出来きないままでいます。それならば、あたしのこの状態も「おしまい」と呼べるのでしょうか。それともあたしも別の形で「死」を迎える時がくるの、かしら。そもそも、あたし。シャム猫のように、にゃん!って鳴けただろうか。
ブランケットで包んだ。
あのシャム猫の、ずっと、
おやすみなさいの中で。
眼球から覗き込んで向こう側。
曇った硝子窓の向こう。
シャム猫を水煮にしようか。
悩んでみたり。するのです。