おひさま
しろう
ステンのやかんで湯を沸かし
凍った車の視界をひらく午前七時
柔らかさを帯びた空気の向こうに
こっぽり
と浮かんでいるあれは
マリーゴールドの豊潤
あるいは熟れた蜜柑に似た
色
明け方の津波のような悪夢は
フロントガラスの霜と溶かして
湿り気で霞んだ薄青のあたりに
こっぽり
と浮かんでいるあれは
鮮やかな卵の黄身の濃密
あるいはカーブミラーに似た
顔
くじらの背中のアスファルト
夜の駆ける道筋は
対向車のハイビームに目をやられて
しばしば身体を見失ってしまう
いつだってやさしいものから
記憶のミルクを零していくから
大事なものたちの名を忘れないように
つぶやく
呼ばなきゃ
名を
ああ
思い出した
レッドチェダーが融解し
夕張メロンの果肉が
透明に燃えている
まる
あれは
おひさま
と、
呼ぶのだ
そのいろ
こころ
あたため