リズム
麻生ゆり

 朝目が覚めると、隣に生理痛が寝ていた。
「…あんた、何してるのよ」
「何って、仕事です。好きでこんなことしてるわけじゃないですよ」
 生理痛はへいこらしながら頭を下げる。
 その日は休みだったので、いるだけならいいか、と私は諦めて布団をかぶりなおした。

 …それから数時間後。生理痛はどこからか槍を持ち出して、ベッドの前で踊っていた。両足を高く上げ、力強く地面を踏み鳴らす。
 ずんどこずんどこ。
「…ちょっと、おなかに響くんだけど」
 私の顔は怒りと貧血で蒼白になっているに違いない。
「ええ、そのつもりです」
 生理痛はにやりと笑った。さっきより強気になっている。
 ずんどこずんどこ。
「さっさとやめないと、今すぐバファリンぶちこむわよ」
 脅したつもりだったがヤツは聞かない。不敵に微笑むと、上半身を起こしただけの私に言った。
「いいですよ。そのおつもりでしたら踊りはやめますよ。でもその代わり胃痛さんをお呼びしますがよろしいですか?」
 ずんどこずんどこ。
 どこまでも頭にくる。
「あんたのおかげで、私の一日はだいなしよ! どうしてくれるの、毎月毎月。おなかも腰も、痛くて痛くてしょうがないじゃない! だいたいあんたなんて…」
 堪忍袋の尾が切れた私は、踊り続ける生理痛に向かってひたすら文句をわめき始めた。自分で言うのもなんではあるが、生理中のヒステリーというものはそうそう止められるものではない。
 それでもまだ、生理痛は楽しそうに踊っている。
 ずんどこずんどこ。
 そんなこんなで2、3時間が過ぎ、私ののどがかすれ始めた頃になって、ようやく生理痛はダンスをやめてくれた。それからまた小1時間ほどたつと、ヤツは徐々に徐々に小さくなり、やがて豆粒大ほどにまでなり、そしてついに消えてしまった。
 こうして、私は今月も生理痛をやり過ごしたのである。


散文(批評随筆小説等) リズム Copyright 麻生ゆり 2007-12-16 18:39:18
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