或る冬の横断歩道で
エチカ

1、私

道路のわきに沿っている
白いはしごがひどくゆがんで見える

テールライトが砕け散ってしまっていて
私はここにいない

頭の中でゲシュタルトが崩壊していくように、
二足歩行の方法を忘れてしまっている
アルコールだのアスピリンだのが螺旋状に
ひどく柔らかく落ちていくみたいに。


2、女

剥がれかけた女の化粧が気にならないでもない
壁のように、そこにただあったであろうに
真夜中の信号機が点滅してちかり、ちかり、と
黄色い化粧に姿を変える
携帯電話を片手にして。

ただ呆然と前を見るんじゃない、
だらしなく笑うんじゃない、
くだらない若さなど早く過ぎ去ってしまえ。



3、運転手

知らないビルの一角にいた
地下鉄の運転手
カップめんの食べ残し
伸びきった麺がだらしなく垂れている
布団に包まって
その夢は、昨日見ただろう。
また同じ夢を見るつもりなのか。

そのレールはまだ腐っちゃいないのかい。
ホラ足元の、あんたが今まで運転していた
真っ白なレールのことだよ。
よくごらんよ。
過ぎ去っちゃいないかどうか。







私はここにいない。
風景画のように通り過ぎていくんです。

走馬灯ではありません。
それはひどく柔らかいのです。
ひどく無機質で
冷たいのです。


私は、冬を忘れてしまいました。
まっすぐに歩けずに
すぎていくのです、ただいっさいは。






太宰よ あんた今どこにいるんだよ。 







自由詩 或る冬の横断歩道で Copyright エチカ 2007-12-15 00:12:22
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