密葬の夜 〜青の日〜
服部 剛
一月前に倒産した
詩学の社長の寺西さんが
事務所の布団に横たわったまま
十日前にこの世を去った
様態急変による
脳内出血であったという
三年前の「青の日」で
互いの詩を語り合った面々は
予想外の「追悼忘年会」となった
毎年恒例の集まりでテーブルを囲み
寺西さんが打ち上げでよく頼んだ
「バターコーン」を頼む
間もなくやってきた店員は
当たり前のように
僕等の囲むテーブルの真ん中に
つぶらなコーンの頂に
バターのとろける
小さい鉄板を置いた
「 寺西さんがじゅーじゅー言ってる 」
テーブルを囲む
詩人のひとりが言った
寺西さんの故郷の
鳥取まで行けない僕等は
在りし日の彼と
打ち上げでよく飲んだ飲み屋で
あの「青の日」の夜のように
互いの欠けたこころを晒し合う
僕等だけの通夜で
( 想い羽 )の姿で
( 遥かな国 )へ
羽ばたいてゆく
一人のたましい
を見送った
深夜二時
僕等の去った飲み屋の席で
からだの透けた寺西さんは
丸みを帯びた背中で
いつまでも独り酒を飲んでいた
テーブルの真ん中に置かれた
小さい鉄板に
食べ残しのコーンは散らばり
いつのまに
バターの姿は
消えていた