繋ぎ
鴫澤初音

  家に帰ると 鞄の奥深くから取り出した
  携帯に公衆電話から着信があった
  そういうことをするのは多分 馨ちゃんだけで
  でも何となく 電話をするのは憚られたので
  電話してくれた? ってスカイメールだけ送った

 
  だけど

  返事なんて返ってこなかった


  
                       三日月が

          雨の跳ねかえる水たまりに見えずにいた 



  片仮名に 
  固執する
  大好きな映画を糞みたいに軽く「ラヴ♪」とか言われて
  死ね 死ね 死ね、死ねよ 馬鹿
  この人たちにとって 言葉とはどのような意味を持つのだろう
  浮く
  そんな言葉で何を語れるのだろう
  
 (意味なんてないよね?)
 (お前、トベルって)
 (意味ってどういう意味か知ってるわけ?)
 (死ねよ)
 (お前、トベルって)

  

      手に掬い取った蛍光灯の青ざめた光
      拭っても
      取り除けなかった汚泥

      父が
     (お前は 母と祖父との子どもだ)
      と高らかに宣言したとき
      その ずっと慕っていた母の行為よりは寧ろ
      父の悲しみに圧迫された侮蔑の眼を
      憶えていたいと
      思った

 
    
      変わらず

      この町には
      私の残骸がある

      貧しさが滞らせた指を
      返して

      生きていくために
      なくしたものを
      拾おうと
      して

      やめて

  
     (お前、トベルって)  


      そう
      誰かに
      言ってほしかった   

      

   誰が
   夜 私に
   公衆電話から電話をしてきたのか

   知りたかった

   話されなかった言葉を
   知りたかった

   父も母も語らなかった

   
   馨ちゃん


   私、トベルかな


自由詩 繋ぎ Copyright 鴫澤初音 2007-12-09 01:17:17
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