風雷
楢山孝介

         (2007・9・19)

突風に流されてきた雷がうちの庭に落ちた
しばらく前から庭に住み着いていた、
愛らしい雨蛙が焦げてしまった
咲き始めていた萩の花も散ってしまった

「何やの、今のごっつい音」
腰を痛めて座敷で寝ている母の声がした
「風雷や。庭めちゃくちゃや」
「お父さんみたいやなあ」
母はなぜか可笑しそうに言った

父とはこんな人だったか
記憶を探ってみたものの
空から落ちてきたり
庭を荒らしたりする姿は浮かんでこなかった
若い頃の父を私は知らない
母の古い記憶の中の父だろうか
亡くなった後になってから
母の中で暴れ出した父なのかもしれない

「もう一回落ちんかなあ」
腰をさすりながら起きだしてきた母が
荒れた庭と、晴れ始めた空を
愛おしく見つめながら言う
「天気良くなってきたし、もう来んよ」
「ますますお父さんみたいやわ」
ああ、これはのろけなんだ
とようやく気付く

母は冷蔵庫からビールを出してきて
風雷の落ちた辺りに撒き始めた
「お酒好きやったからねえ」
黒焦げの雨蛙が
ビールの泡で洗われていく


自由詩 風雷 Copyright 楢山孝介 2007-12-08 20:28:24
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