サクラの散る道
アンテ


咲いた順に散って
地面に達したら
あとは朽ちるだけだから
一番いい時に花を開かなければ損
そう教わった
サクラが綺麗なのは
みんな一斉に咲いて
一斉に散り落ちるからだ と

開花を告げるのは
いつだって
最初に咲いた花なのに

マイペース
という言葉がキライだった
先へ進む力を否定して
それを上手に正当化して
自分で自分を許す呪文
他人のためにしか
使ってはいけない言葉だって
念じて生きてきた

ピンク色に染まった地面を
踏みしめて歩く
けっして目を逸らさない
咲いたのは彼らの意志だから
いつか散ることを知っていて
それでも
花びらを開いたのだから

ほら きれいねえ
たくさん咲いているよ
他人ごとの感想はたやすい
言った本人さえ忘れてしまうような
安っぽい言葉でも
常に褒めてもらわなければ
生きていけない人には
良薬なのだろう

タイルや煉瓦が敷き詰められた道
線のとおりの歩幅で歩くと
つまづいてしまう
真っ直ぐに歩いていると
身体の軸がどんどん傾いて
立っていられなくなる
人が人でいられる根拠は
とても脆弱だ
安心と引き換えに
捨ててしまった自分の量だけ
存在が軽くなっていくから
春の気まぐれな風にさえ
足もとをすくわれる
真っ直ぐに歩く目的はなんですか
街の形は居心地がいいですか

サクラが散るのは
なぜですか

一年のうち
たった数日のために
通りに沿って
等間隔に植えられた木々
森のなかに
サクラは決して咲かない
いつだって

花びらで埋めつくされた道
胸を張って
手を振って
歩いているうち
いつの間にか
枝には葉が芽吹いているだろう

春は過ぎているだろう


自由詩 サクラの散る道 Copyright アンテ 2003-05-14 01:00:52
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