乾いた池の畔
川口 掌

 
  

あそこで
庭木の手入れをしているのが父です
もう随分彼は
そこから動かないので
毎日
朝夕の水遣りをするのが
私の日課です

週に一度
伸びすぎた腕や増えすぎた首の
選定をしなければなりません
ぷつん と落ちた腕や首から
どくどくと想い出が零れ出します
零れ出した思い出は川を伝い
やがて海へと流れ込みます

先月まで父の横に
大きな思い出の
池が出来ていました
私は次第に
父の側に近寄りがたい物を感じ始めました

思い出の池から溝を掘り
海へと繋ぎます
溝を流れる思い出はやがて川となり
そして海へと流れ落ち
大きなあらゆる想いと一つになります
乾いた池の畔でまた私は
父の世話を続けます

選定した日の晩は
犬の遠吠えに混じり
父のすすり泣く声が聞こえます
私の頬も
いつしか少し濡れてゆき
布団をかぶって眠ります
いつの日か
父の隣に根付く
私の姿を思い浮かべながら






自由詩 乾いた池の畔 Copyright 川口 掌 2007-12-06 18:15:40
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