ジェットスランプ
木屋 亞万
飛行機はスランプだった
最近どうも離陸が上手くいかない
Uターンして少しずつ速度を上げて
真っ直ぐに走りぬけて
いざ浮かん
さあ今こそ
ほら
気ばかりが
浮いて沈んで抜けていく
機長はため息をついた
息子が今度私大に行くことになってな
何とか飛んでもらわんと困るんだよ
娘も去年大学に入ったっばかり
妻はフランスへ留学中
足が出て仕方が無い
ジェット機から足出して
私が地面を蹴り上げてやろうか
客はエコノミークラスで
症候群を恐れている
水を飲んでトイレに並ぶ
行列を避けて空港に戻る客も
ちらほらきらもら
用を足して帰ってきても
ペットのように縛られて
飛行機は空港を離れられないまま
どうやって飛ぶか教えてくれるかい
飛行機は小鳥に聞いてみた
身体を限界まで軽くして
思い切り両翼を羽ばたかせれば
絶対飛べるよコツはいるけど
荷物も人も全て吐き出し
羽ばたこうとしたけれど
自分の身体は思っていた以上に
固く脆くそして重たかった
機長はライト兄弟だぜと言って
滑走路を全速力で移動する
アメリカの飛行機の親なんだぜ
両手を広げて離陸準備だぜ
一足先にアメリカに行ってるぜ
機長は海へと飛び込んだ
そのころ機内では
客室乗務員が客にキャビアと白ワイン
アテンションプリーズ
非常時は救命胴衣を引っ張ってふーふー
副操縦士が頭の裏で囁いた
いまどきの飛行機は自動操縦だから
あまり深く考え込まずに
僕らに身を任せてくれればいい
機長は重くなった衣服を引きずり
昆布と機内に帰ってきたぜ
そうだ考えるな感じろ
目の前に道がある限り
走り続けろいのち果てるまで
いよいよ離陸
瞬間は呆気なく訪れ
待ち望んでいた重力を
身体で感じた客から歓声
興奮は意外にすぐ冷めて
アンデンテ歩く速度で
アテンダントはアルデンテ
パスタを配ってデルモンテ
フィッシュでフィニッシュ
フィッシュオアパスタ
いつも通りの機内
いつも通りの自動操縦
スランプ気味のジェット機は
ジェット気流に捕まって
着陸なんかできやしない
車輪が出なけりゃどうするの
腹打ちなんて絶対嫌だし
不安症の旅客機は
太平洋を移動中
どうも着陸できそうにない
みんな救命胴衣を引っ張ってふーふー