冬のあと
水町綜助

 古い油紙に
 絵を描いては
 町をふらつくから
 落として
 何度も
 太陽のもとで

 水たまりに
 浮かぶそれを拾って
 濡れた絵は
 ぼやけてしまうので
 また
 晴天に干す

 ひら
 ひらと

 わらってしまうほど
 幼稚な
 毎日が
 斜めに
 切り取られ
 日々として
 強く
 焼き付けられた
 写真のようで

 ネガはもう
 いわゆる真夏の中で
 引き出したから
 感光したよ」


 昔から
 行ってみたい場所がある
 それは丘の上でもあり
 海原の中でもあり
 静止してしまいそうなほど
 硬質につよく
 聖性を帯びた光のうちで
 蒸発寸前の森林であり
 その日暮らしの太陽の終わりであり
 夏の島の長い休暇でもある  

 ひとつ鷹の旋回のような軌道を
 ふいと指先で乱した先にある
 あるが、どのような位置なのか知らない

 いま手元に残る
 何枚かの写真の中に
 そんな風景が写り込んでいるが
 かすかな匂いこそすれ
 そこでめずらしく微笑む男は
 落ち着かなげで
 溶けるため糸口を
 風景の綻びをさがして
 ただ自分の輪郭を忘れるばかりだった

   *

 このひとつの季節が
 日本を
 寒さの中
 凍りつく事なく
 過ぎていったら
 旅行に出かけよう
 曖昧な憧れは
 憧れたままで
 どこにでもあり
 その実なかったかのように
 気付かなかったのなら
 求めていなかったのだろうから
 さがす
 とか
 さがさない
 とか
 じゃなく
 旅行に
 出かけよう





自由詩 冬のあと Copyright 水町綜助 2007-11-29 13:56:09
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