MIKADO
rabbitfighter

舞台では観客も観客を演じている。あなたはゆっくりと下着のひもを解く。解かれたひもははらりとたれさがる。あなたの指先がどんなにゆっくりと解こうとも、解かれたひもは重力にしたがって予定された速度でたれさがる。そのひもがゆっくりと落ちていくように見えるなら、ひももやはりひもを演じているのだ、あなたの腰にゆわえつけられた。そしてあなたもまた何かを演じている。この小さな、でも座席からあぶれた観客でいっぱいになった劇場の舞台で、それでは何を演じているのか。舞台にはあなたの脱ぎ捨てた衣装が散らばっている。あなたはしかし、裸になることを恥らうように薄いレースの下着を右の足首に巻きつける。そのままその指は両足を這って進み薄い陰毛を掻き分けて裂け目の奥に埋まる。観客の視線はあなたの指に導かれ、初めてその裂け目の奥に入ることを許される。あなたが脚を高く上げるとまたレースのひもがゆっくりと揺れる。音楽もミラーボールもゆっくりとまわる。あなたはゆっくりと自分自身を高めていく。からだが汗で濡れ、うっすらとひかっている。そしてあなたは時代をさかのぼり、やがて物語の中に自分を見いだす。劇場にはもうすべてが揃えられている。観客があり、音楽があり、松明が灯り杯が回される。あなたは神々の御前で舞を舞う。神々は笛を吹き、鐘を打ち鳴らしてあなたをはやしたてる。もはやあなたは絶頂の間近にいて飛び跳ねている。そしてついに、あなたの指があなたの絶頂をその裂け目から引きずり出すと溢れだす飛沫とともに木の花の香が舞う。それは降り注ぐ甘露の雨。あなたの余韻は、ミラーボールに砕かれるまま宙を舞う。


自由詩 MIKADO Copyright rabbitfighter 2007-11-27 02:38:58
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