落下/傘
石田 圭太
美しかった言葉
怪物の中に
悲しみをまさぐる怪物がいる
彼方までの距離を測ると
すべて等しく平行で
いつまでも
いつまでも
途方のないまま
そんな父と母は出会った
+
芯のない
鉛筆を
転がし続けている
止むことのない歓声
拍手
そしていくつかの衝撃音
戦争、
戦争のはじまりに
一握りの人間が
恋を
はじめている
蓋を閉じると
答えはもう彷徨いはじめて
か細い
たましいから順番に
吐き出されていくのだと知った
+
すべてがうそになる前の
灰色のカーテン
浸すのは太陽の赤い、
赤い、赤い、
あれは、
君なんだろうか
殴りつけた言葉たちが
青く、
丸い女に抱かれる
青い、青い、
あれは、
君なんだろうか
古い月が灯って
古い星が煌めく
届くのは、
+
今、世界に千の槍が降り注ぐ。それは答えよりも早く生まれてしまった者たちだ。空にあって良かった、最初から一人で死んでいくのではない。死んでいくのではなかった。
父も母も私たちの息子も恐れる槍から守る
そんな傘に
私は生まれなかった