私は私が笑って死ねる場所を探したい
　と
　旅人は思うらしい
　ひょっとしたらポックリその場で死ぬかもしれない
　車に当たって死ぬかもしれない
　恨まれて誰かに殺されるかもしれない
　欠伸をした拍子に顎が外れて
　間抜けに笑って死ぬかもしれない
　毎日下らない想像しながら
　旅人は隣町へ付いてしまう

　見ず知らずの子供に百円あげた
　もうすぐ死ぬと思って何度もあげるのだ
　それでも旅人は死なない
　のんべんだらりと生き続けている
　悪いと知ってタバコを吸い
　毎日飲み歩き
　挙句路上で寝るが
　それでも旅人は死なない

　喧嘩が好きだった
　ひょっこり当たり所が悪く倒れて
　死ねるかもしれないから
　しかしもうちょっとというところで
　相手は手を抜いて帰ってしまう
　旅人の所持金だけが寂しくなった

　旅人は芸をした
　暇つぶしに過ぎない芸なのだが
　これが人を呼び、金を生む
　時間つぶしの下手な旅人は芸をするたび
　財布を暖かくした
　終わると毎日のように
　貯まるのが面白くて決まって自棄酒をする

　旅人はどこで死ねるか交番で聞いた
　警察は知らないといった
　肩を落とした旅人はまた隣町へ向かった
　実に旅人は健康そうだった
　褐色の肌が張っていた

　旅人の口癖はこうだった
　私が死にたい場所はどこだろう
　私はどこで死ねるのですか

　旅人は今日も行く
　北へ東へ西へ
　南は暖かくて嫌いだそうだ
　笑って死ねなそうだと彼は言っていた