創書日和「指」 五本
山中 烏流



?.親指

雑踏が導く理の
その、陰に息衝くものを
私の指先は
いつだって捉えながら
突き放している

高々と掲げた先端は
赦しを表すのか
もしくは、祈りの一つであるのか
私にはこの爪程も
理解することが、出来ない
けれど


もしかすると
その矛盾こそが
意義なのだろうか、とも
考えている



?.人差し指

爪弾いたものの
振動に、甘えるように
私の水底では
絶えず波紋が起こり
そして、
潰えていく

他へと響くことに
耳を塞いで
聞こえないふりを、する
指されたであろう
左頬の赤さは
きっと、悪なのだと
して


誰かを指したあと
触れないふりをしたのは
少しの後悔と、
それから



?.中指

まさぐった奥底
その、意味を知るとき
私は少しだけ
女になっていく
鼓動の音を
恨んだりも、する

突き立てた性の
ほんの小さな罪を
見えないようにして
うずくまりながら
ただ、


夕暮れは
いつだって赤いことを
私は未だ
知らないでいる



?.薬指

口付けた余韻が
様々に分かれている
それは瞬くと
私を、優しく
締め付けていく

差し出した指先から
ほろほろと
何かが零れたあと、
爪跡が描くものは
いつも決まって
恋文だったものだから、
私は


少しだけ
揺れた毛先から
約束が伝わる日を
待ち望んだり
して、いる



?.小指

千切れた合図が
耳元でこだましている
それはつまり
一種の契りであり
既に、幼さを
忘れた証だった

小さな横顔は
夢の終わりで、いつも
指きりを強請る
それを見ないようにして
不自然に、目覚めることを
大人と言ったのは
誰だったか


大人であることを
私が選んだとき
その始まりに立つのは
いつだって
私だと、いうのに













自由詩 創書日和「指」 五本 Copyright 山中 烏流 2007-11-25 19:19:43
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