赤いいちごのベスト
佐々宝砂

お気に入りの毛糸のベストが
母が赤いいちごを編み込んだベストが
もう入らなくなってしまったと気付いた十二の春

すこし悲しいと思ったのは
自分が大きくなってしまったからなのか
ベストが小さくなってしまったからなのか
わたしにはわからなかった

わたしはいくつか星座をおぼえて
空の星は無名ではないと知った
北斗七星
しし座
おとめ座
そして誰よりも何よりも急ぎ足で過ぎてゆく
夜更けの赤いアークトゥールス

なにひとつ変わらないように思えても
アークトゥールスは動いてゆく動かないように見えても
アークトゥールスは急いでゆく空の星は
そう空の星ですら
動き変化し続ける

わたしはなぜか赤い星が好きで
赤いいちごが好きで
だけどわたしはいちごアレルギーで

赤いいちごのベストは
まだわたしの箪笥の奥にある


自由詩 赤いいちごのベスト Copyright 佐々宝砂 2007-11-24 02:13:23
notebook Home 戻る