赤いいちごのベスト
佐々宝砂
お気に入りの毛糸のベストが
母が赤いいちごを編み込んだベストが
もう入らなくなってしまったと気付いた十二の春
すこし悲しいと思ったのは
自分が大きくなってしまったからなのか
ベストが小さくなってしまったからなのか
わたしにはわからなかった
わたしはいくつか星座をおぼえて
空の星は無名ではないと知った
北斗七星
しし座
おとめ座
そして誰よりも何よりも急ぎ足で過ぎてゆく
夜更けの赤いアークトゥールス
なにひとつ変わらないように思えても
アークトゥールスは動いてゆく動かないように見えても
アークトゥールスは急いでゆく空の星は
そう空の星ですら
動き変化し続ける
わたしはなぜか赤い星が好きで
赤いいちごが好きで
だけどわたしはいちごアレルギーで
赤いいちごのベストは
まだわたしの箪笥の奥にある