助産婦が、間違えて
狩心

妊婦の体から
大人の男を引き摺り出した
体液に塗れたその姿
言葉を発しようと、口を開くが
伸び切った粘液に閉ざされ
大きなシャボン玉が膨らむだけだった

ジャボン玉の中で回転する言葉達
助産婦は世界の終わりが来たと勘違いして
自然発火を起こし干乾びていく体を、一つの灰とした
妊婦の意識が失われ、大人の男がよちよち歩きで扉の外を目指した
へその緒がビビッと突っ張って歩行が止まり、地面と水平に、一つの直線を生み出した

直線から粘液の壁が延びて行き、二枚目の地面を構築した
一枚目の地面から、じわじわと地下水が滲み始め
その二つの地面の間に、水中都市が建設された
巨大なパワーショベルの横を、髪の長い人魚達が歌を歌いながら舞い落ちる
部屋の四隅に一つずつ、別々の形をした太陽が掲げられ
それらはまるで、水中都市を監視する裁判官の魚眼レンズだった
窓がバタンと閉まり、真っ赤な舌が伸びてくる
妊婦の脈拍を測った後、舌は体を包み込み
走り抜ける明日を、消化した

ズズズという音
大腸を駆け巡る軍隊の足音
指揮官は死んでおり、兵隊達は無目的に、そして無差別に、強姦を繰り返した
水面は震度を増して、二枚目の地面を越えて行き
酸素と結合しながら、空という空を全て削減しようと試みる
天井裏にいるネズミ達が恐れをなして、引越しの準備を始める

人の気配が無くなってから、部屋の四隅に蜘蛛の巣が張り始める
裁判官の魚眼レンズは曇り、裁決の日を、混沌の悪魔に明け渡した
何万年も時を経たのに、シャボン玉は割れる気配が無い
時間の壁が迫ってくる
部屋は縮小し、凝結する
一つの点に、なる為に


自由詩 助産婦が、間違えて Copyright 狩心 2007-11-23 18:54:54
notebook Home