還れる場所は、ありますか
ピッピ

地上に穴は、ありますか
地上に塔は、ありますか






神さまは、昔、保育所の先生に怒られました
粘土遊びをしていた時のこと、
ころころ、ころころ、手のひらの上でまるい球体をつくろうとしたのに、
いつも、手の皺や、指の先が邪魔をして、上手な球を作れなかったのです

すっかり硬くなった、指紋だらけのぼこぼこのボールを見つめながら、
神さまは泣きました




大人になった神さまは、会社に勤めました
月給はそれほど高くないですが、満足のいく生活をしていました
帰り道、数日に一回行っているラーメン屋さんに行くと、
今日は珍しく、小学生が来ていました
神さまは、あの日のことを思い出したのです
お釣りを店員さんから貰ったあと、その手をまじまじとみながら、
受け取った300円で、神さまは早速粘土を買いに行ったのです

ころころ、ころころ、
普段はペンの滲みくらいでしか汚れることのなかった手が、どんどん汚れていきます
1分も経たないうちに、神さまはほとんど完璧な球を作ることが出来ました
神さまは喜びました
調子に乗って、神さまは次々と球を作り上げていきました
最終的には、全部で9個の完璧な球体が、神さまの目の前に並んでいました
神さまは、出来上がった完璧な球体を、部屋に飾っておくことにしました




数日経ったある日、おかしなことが起こりました
全部同じ条件で作ったはずだったのに、左から3つ目の球体にだけ、
なぜか小さな虫のようなものがたくさんついていたのです
「ひい」と神さまは言いました
でも神さまは、完璧な球体にむやみに触れると、それが崩れてしまうと思い、
必要以上に触ることはありませんでした
神さまの願いはひとつでした
「完璧な球体を、壊さないで欲しい」




神さまの願いは、叶いませんでした
そこには緑色の黴が生え、どこからか水が漏れるようになってしまいました
虫はどんどんと増え、そこには見たことのないような形をしたものもたくさんいました
「畜生!」と神さまは言いました




さらに時間が経つと、もっとおかしなことが起きました
緑色の黴がだんだん減っていって、代わりに球が歪な形になっていったのです
棘のようなものがたくさん生えたり、深い穴が出来たり、触れると今にも崩れそうです
これはもうだめだ、と思った神さまは、3つ目の球体を捨ててしまいました




今でも、8つの球体は整然とそこに並んでいて、虫も全くいません
神さまはとても嬉しそうにそれを眺めています






地上に穴は、ありますか
地上に塔は、ありますか
還れる場所は、ありますか


自由詩 還れる場所は、ありますか Copyright ピッピ 2007-11-23 13:01:51
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