鬼の左手 (2/3)
mizu K


(1/3)http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=140157 のつづきです

さて、炎天とはいえ、日もかたぶけばわずかばかりの乾いた
風が通り過ぎるのですが、足弱の子が杖を持って戸口に現れ
るのはまだ暑さに人の通りもまばらな刻のこと、ちりりちり
りと鈴を鳴らして、壁づたいにそろそろ、緒は隣口まで、次
は塀まで、その次は辻まで、ひと息ふた息つきつつ歩を進め、
通りをきっと眺め、行き倒れの物ごいのまなこに止まる蠅を
どこかぎらぎらした瞳にうつしているのでした

あの子の首からぶらさがっている
あの鈴はいったい何だ
亡父の形見か
牛でもあるまいに
それ、まじないか
或いは所在を知らせるものでは
人通りが多ければ役立つだろうが
しかしあの足は治るのか
何かのたたりでは
前世の報いでは
あの家は、げに、よくないことが起こる
何れにしろ
あのようなものを外に出歩かせるのは、
鬼を呼び込む

今朝は早くからひどく賑やかと思っていますれば、祭りのか
け声が聞こえてきて、この飢饉の跫に皆おびえているのに物
好きもいるものだ、やれやれと思いながらはたと気づけば、
今日は縁日でもなく、よくよく考えれば物音は聞こえこそす
れ、神輿衆の姿はどこにも見えず、隠(お)んでいるものの
姿は見えぬという、あな昼日中に鬼の祭りか、夜に百鬼が行
列をするという話はありこそはすれ、はたして、といった話
が噂され、宮の政ごとは腐敗が人々の口にのぼって久しく、
いったいこの都は正常に機能しているのか最早だれにもわか
らず右往左往、その行きかう者たちの足は千々に乱れ、宮か
ら立ちのぼる白い煙の元は雨ごいではなく、何かよからぬも
のを燃やしているのではないかともまことしやかに噂される
ようにもなりました

人の目はどうでもかまわない
ただただ歩くだけ
願掛けをしたの
百と十日欠かさないと
日照りだろうとこぬか雨だろうと
辻まで往復する
百と十回往復する
そうすれば、そうすれば、
足は/

幼子が杖をついてちりりちりりと音を後ろに残して歩いてい
ると、その残した響きを拾うようにして背に近づいてくる気
配、何者かもわからぬまま、汗の玉を顎からぽとりぽとり落
としてじりじりと前だけを見て歩いているのですが、ふいに
背後で鈍青のようなにぶい金属をすりあわせたような音色が
し、それから足がひた、ひた、と近づき、若い男の、もうし、
もうし、という声がしました



(3/3)http://po-m.com/forum/showdoc.php?did=140913 に続く

*m.qyiさんのwebマガジン「the contemporary poetry magazine vol.3」参加作品
http://www.petitelangue.com/CPM3/index.html




自由詩 鬼の左手 (2/3) Copyright mizu K 2007-11-21 23:35:18
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